ゴキとガン患者の晩秋

ゴキとガン患者の晩秋

病気が発覚したときからのことを時系列に書こうと思い、こうして記しているのですが、そうしているうちにもどんどんいろいろな出来事があり、次いでさまざまな思いが湧き出てくるもので、なかなか先に進まないというジレンマに陥り、未だにストーマのカテゴリーは「0(ゼロ)」を差したままで、いい加減なんとかせいと自分にツッコミを入れるのでありました。

書きたいことは許多あるので、いたしかたない。リストにピックアップしてあるだけでも、あと八十以上のネタが待機していて、それがまた、日々、増え続けているのです。(減ることもあるけど)

なので今日は、抗がん剤のころに戻ってみたいと思います。

近代文学調でまいります。
タイトルは『ゴキとガン患者の晩秋』

◇◇◇

あれは、化学療法も終盤にさしかかったころのことでございました。
秋が深まり、いよいよ冬になるであろうという、なんともひんやりとした清澄な空気が、あたり一帯を覆っているのでありました。

「お母さま。そろそろ、暖房器具を出さねばなりませんね」

などと話していたろうと思います。

その日は療養所で抗がん剤治療をうけ、自宅で副作用を待つばかり。そのころはおきまりで、まだ、余裕綽綽。そうはいっても、体力を蓄えておかねばなりませぬ、とばかりに、なるべく静かにすごすよう、寝床にちょこんとこしかけているのでありました。

そうしているうちに、なにかの異変に気がつきました。どうも、いきものの気配があるようなのです。
なにかしら、と思っているうちに、ぼうっとしているわたしの目の端に、動くものが映りました。

天井近くの壁にひっついた、大きな黒い昆虫です。長い触覚を動かしながら音も立てずに這っているではありませんか。

「あらいやだ、ごきかぶり(ゴキブリ)だわ。こんな季節に、どうしたのかしら」

すかさず昆虫捕獲用のいれものを取り出し、長い棒を持って追い回しはじめたのでした。するすると動く虫は、壁をつたって逃げていきます。

「えい、お待ち。逃げるのはやめて、あきらめてしまいなさい」

そのときはすでに、がんのことも、体力が落ちていることも、すべて頭の中からふっとんでいます。火事場の馬鹿力というのでしょうか、うそのように素早く部屋の中を走り回ります。

わたしは、いきものを殺すのは、きらい。
どうしても仕方のないほかは、できれば殺したくないのです。
ですから、いれもので捕まえるのです。

そのうち、この黒い虫も観念したとみえて、器の内におさまりました。たぶん、寒さのために少し弱っていたのでしょう。案外、易易とつかまったものです。
あとは、厚紙を壁といれものの間に挟みこんでふたをすれば一丁上がりです。そのまま民家から離れた林まで持っていき、逃がしてやるのです。それは、そのとき居合わせた母にお願いするのでした。

人間、こんな状況でもやるときはやるのですね。それにしても、

「ああ、ほんとうの副作用がくる前で、よかった」

◇◇◇

わたしは、なぜか虫によく遭遇します。しかも、見たことのないような色とりどりのものや、元気いっぱいに跳ね回るものなど。それも、どういうわけか人を呼ばずに自分で対処するという。実家にいるときも、人知れずいろいろな虫を発見、退治したものでした。

しかし一番すごかったのは、アメリカにいたときです。かなりな年代物のレンガ造りのアパートに住んでいたのですが、毎日5匹くらいのゴキ(中サイズ)が登場しました。そのたびに、Nissinカップヌードルの空きカップで捕獲。そして、大きく重い木枠のついた縦開きの窓をグイと押し上げて、2階の部屋から中庭へと撒いていました。虫がヒューーーン、と弧を描いて落ちていくさまが、なんとも爽快でしたね。迷惑な住人。

虫の来訪は、特に体調が悪いときは遠慮したいものです。
でも、もしもあのごきかぶり登場がバリバリ副作用のときであったとしたら、やっぱり派手に立ち回ったかもしれない思います。自分がやらねばならん、とアドレナリンが出まくって。実際には絶対になりたくない状況ではあるものの、そんな想像もしてみるのでした。

ひまわりと虫追いの少女
外ででも捕まえたい虫もいるのになあ
[療養中フォトギャラリー by iPhone (c)木口マリ]
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~ Comment ~

NoTitle

嗚呼、とても愉しく拝見いたしました。
文豪作家の傍らで、ゴキを相手に奮闘する奥方の様子を想像してしまい
ました。
まるで、明治から昭和初期のノスタルジックな映像が目に浮かぶ様は
ほのぼの愉快なきもちにしてくれました。

マリさんはとても魅力的な女性ですね。

と、恋文のようですが♡

ともかく、ゴキちゃんとは遭遇したくないですなぁ。

すてきー

マリさん、ごきちゃんと戦うなんて素敵だわー
でも、わかる気がする・・・
あたしがやらにゃ~誰がやる?と思うと
ほんと火事場の馬鹿力みたいのんがでるよねww
北海道はごきちゃんがいないんだけど
内地ってほんといるよねー(>_<)
甲府もここも新築物件に入ったけど
甲府では3回、ここでも1回出たーーーーーー。
。・°°・(>_<)・°°・。 
外から来るから関係ないのね~(ーー;)

>ゆるり さん

そう!そんな時代設定です。
多くの人がまだ和服だったくらいの雰囲気。
イメージが分かってもらえてうれしいです〜(^▽^)/

恋文、しかといただきました。
ありがとうございます〜〜照れる〜〜(///∇//)/

ゴキちゃん、野原で生活してください。

>kikako さん

ほっかいどう〜〜、ゴキいないなんてすばらしい!うらやましいです。

そーなんです。
実家で父も兄もいる時でも自分でやらにゃーと思ってしまって、すごくイヤなんだけどがんばるんです。
しかし治療中のゴキ退治では馬鹿力の威力を知りましたね。人間もフシギ能力を秘めてるんだなあと思いました。

ゴキ、新築でも出るならどうしたらいいんでしょう。
共存……?(^^;
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