目の前が真っ暗……に限りなく近いモノクローム

目の前が真っ暗……に限りなく近いモノクローム

目の前が真っ暗。

それは将来の展望の意味ではなく、文字通り、目に映る景色のこと。
しかしそれは暗闇とも違い、ところどころ灰色の筋が入ったような不気味な景色。
見えるもの、聞こえるもの、体の感覚、そのすべてがまるで、狂気の世界。
その奇妙なことといったら、突然巨大な手にわしづかみにされて、岡本太郎の作品の中にねじ込まれてしまったかのよう。

マカフシギな体験でした。
そんなことがあったなあと、その場所を通るたびに毎回思い出すのです。



その場所というのはなんのことはない、近所のビルの一角。ぎりぎり築・平成かなというくらいの少々古風なビルでの出来事です。そのビルに入っているお店に行った時のことでした。

そのころは、前回のブログ同様、まだおなかにストーマ(人工肛門)がありました。あったというより、ストーマの登場からまだ1ヶ月くらいのころです。

抗がん剤治療の時は、副作用をやり過ごして気力が戻ると、近所を歩き回っていました。できるだけ体力を付けるために、積極的に買い物へでかけていたものです。
しかし、ストーマ造設後に退院してみたら、どういう訳か抗がん剤副作用どころではないほどにフラフラになってしまい、なかなか外へ出られなかったのでした。指に冷たい水が触れる、その温度差だけでも立っていられなくなるフラフラ度です。

なのでしばらく大人しくしておりました。しかし、順調に回復してくる自分を見ていたら、そのうち「うーん、過保護かも」というような気がしてきたのでした。そして、「案外、思うより平気だったりするんだよね」という楽観で外出することにしたのです。

しかし、ダメな時はやはりダメ。
すさまじくダメだったようです。

その時はまだ2月になったばかり。
極寒に耐えられるよう、持っている中で一番温かくてゴージャスなダウンコートを着て行きました。
しかしそれもまた、おそらくは誤算のひとつ。

通りを難なく歩いて行ったまでは良かったものの、寒い屋外から温かいビルに入り、次には1階のスーパーの野菜売り場で冷気を受けて、3階のお店までエスカレーターに乗っていけば、そこは暖房の熱がムッと流れてくる空間。しかも、超モコモコダウンコートであるが故、ボタンを開けていても温かさをハードにキープ。絶好調にダウンの性能が発揮されたのでした。

少しの間、感覚的には「暑い」というくらいだったのですが、その時はもう自律神経やら何やらが追いついていなかったのかもしれません。不意に気分が悪くなり、次第に歩く足がおぼつかなくなっていきました。

「早く帰った方が良さそうだな……」

その時選んでいたストーマグッズ製作用の材料を、ろくに見もせずにひっつかみ、レジへと向かうのでした。それがないと製作が進まないため、そこは根性で買う。

しかし、すでに視界からは色が消えつつあり、画像に時々ザザザとノイズが入るような景色で、人の声は遠いような近いような、少々おかしな状態になっているのでした。

何とか支払いを済ませて出口へと向かう、その一歩を進めるほどに画面のノイズが増えていく有様。がんばれば帰れるだろうかと階段に近付いてみたものの、もう階段も手すりもノイズに紛れて見分けが付かず。これでは転げ落ちるのがオチと判断し、階段上の窓辺になぜか作られている、イスの高さの出窓に座ることにしました。

冷えた場所だというのに流れ落ちる汗。
コートを脱いでいても、止めどなく体中を伝っていくのが分かります。

視界はもう、テレビの砂嵐(と、今でも言うのだろうか)なんてものではない。完全にモノクロで、すべてが細かい斜線状。しかも大部分が黒。物の形状が歪んでいるのか何なのか、かろうじて何かがあると分かるくらい。

耳には、どういう訳か2階下にあるパン屋で買い物をする人の声やスーパーのカートのような金属音、ドアの開く音まで大音量で聞こえてくる。突然才能に目覚めたスーパーヒーローのように、音が頭にキンキンと突き刺さってくるのでした。
逆に近くの人の声は膨張したような、エコーのかかったような音。しかし足音だけは妙なほどクリアーというアンバランス。

それらにプラスしての気分の悪さ。

ひっくるめると、かなり非現実的。
まるで五感を駆使したモダンアート。

まさに爆発。
爆発だ!

しばらく待ってもこの階段を下りられるようになるのだろうか、そこから家まで帰れるだろうか、数時間前に実家へ帰って行った母を呼び戻すべきだろうか、お店の人に助けを求めるべきだろうか。

そんなことを思いつつ、それでも微動だにできないまま、座りつくすのでした。冷えた出窓ともたれた壁が不思議と心地いい。

……結局、30分くらいそのままだったと思います。
何となく色や形が戻ってきて、岡本ワールドから脱したような気がしました。

「今なら帰れるかもしれん」と、手すりにしがみつき、超スローペースで階段を下りて行くのでした。

地上へたどり着いた後は、血糖値を上げるために甘そうな紅茶を購入。
なんとか帰り着くことができました。

あの気分の悪さは再体験したくないものの、なかなか無い景色だったような気がします。



突然の人工肛門登場の時にはサルバドール・ダリの世界に沈み込み、今回は岡本太郎。なかなかにアートな療養生活。

今回のこの状態、まったく医師の考えが介入していない個人的な見解では、「脳貧血」というやつではないかと思います。
どうやら体は思うより治っていない場合もあるようです。何か起こるより、「自分に甘すぎる」方が全然マシ。療養中の方はしっかり休みましょう。

(サルバドール・ダリのお話は「恐怖の12月27日」にて)

あるアートの現場
後日撮影の、岡本太郎作品体験現場
[療養中フォトギャラリー by iPhone (c)木口マリ]

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~ Comment ~

うわぁ~

読んでるだけでも、心臓ばくばくで、脂汗が出そう・・・
あたしが先日トイレで1時間くらいお腹の激痛と闘った時のとこを思い出しちゃったw
マリさんの表現がとっても上手で~
あ~こんな風に書きたい~と思ったけど~
マリさんプロだものね~(*′艸`)
あたし、ほんと文章書くの苦手でwww
しかし・・・そういう時ってほんとどうしたいいのかね・・・
マリさん怪我なく無事に帰れてほんとよかったよね
でも、やっぱり無理はしないで、誰かに助けてもらうのも大事だよね
そうそう病気の後は自分に甘くていいのね
うんうん。

>kikakoさん

トイレで1時間も辛い〜!
しかし、痛みとか気分の悪さとか、苦痛ってなんであんなに体力消耗するんでしょうね(^^;
助けを呼ぶにしても、そのうち治るかもと思ったり、待つ時間が長く感じてしまいそうに思ったり、呼んで治らなかったらそれこそ怖いと思ったり、素直にホイと呼べないんですよね〜。
腸閉塞の時は考える間もなく呼びましたが。

kikakoさんのブログ、私好きですよ(^^)
なんか、ほんわかします。
人柄が表れてるんだろうなー。

マリさんコメントありがとうございます。なぜか あちらのほうにコメントができず。。ごめんなさい。

わ 私たち親戚のようなものじゃないですか(勝手に)

隣町まで 2時間。普通にうなずけますよねー。国土広いですもん。
また色々なお話 一緒にしたいです
〜。

すごい経験でしたね〜。
外にいたら外見からは 病み上がりとか 闘病中とか わからないですもんね。私は 病院で リハビリで歩かされたとき 大丈夫 大丈夫と立ち上がって そろそろと歩き出したところ
派手に倒れました。フィジオの先生と 主人という 筋骨たくましい大男が 支えてくれたからいいようなものの 危なかったです。
でもね〜私は 砂嵐でなく、小さな黄色い星が ワンワンという シャーマンミュージックにのせて 目の前で ドンドン大きくなって。
主人曰く 視線が 真ん中によってきてまずい 、 と思ったそうです。
それからやはり 2回ほどやりましたが やっぱり星が 見えていましたw

マリさんの最近のお身体の調子は いかがですか?

>デイジーさん

親戚(^^)/
国際色豊かなお話、いいですね〜!
ホント、国土の広さはすごいですよね。スケールが違いますね。
人が閉鎖的じゃないのはそういう環境のせいでしょうか。

デイジーさんは星が現れましたか!マンガみたいですね。
そしてやはり聴覚もおかしくなるんですね。脳の中では何が起こっているんだろう。

最近はハラの調子がおかしい意外は順調です!
ジョギングをぼちぼちと復活させてるところです。
まずはとにかくランウェアを着てウロウロしよう、というくらいですが。
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